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選択的TYK2阻害剤について:ビジョンと忍耐の物語

私たちは、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害剤プログラムを主導したSchrödingerとNimbus Therapeuticsの初期チームメンバーに話を伺いました。このプログラムで開発された経口選択的アロステリック阻害剤のNDI-034858は、乾癬で最近成功を収めた第2b相試験に続き、複数の自己免疫疾患の治療薬として評価されています。2022年12月24日、武田薬品は、Nimbus Therapeuticsの100%子会社であるNimbus Lakshmi, Inc.とTYK2阻害剤NDI-03485860億ドルで買収することを発表しました。本記事では、彼らが直面した課題と、それをどのように克服してベストインクラスの候補となる医薬品を開発するまでに至ったのかをご紹介します。そこには、これまでとはまったく違うやり方で創薬を進める彼らの的確なビジョンとマインドセットがあったのです。

Atlas VentureのパートナーであるBruce Booth氏とSchrödingerのCEOであるRamy Farid氏が2009年にNimbus Therapeutics(当時はWaterMapにちなんでProject Troubled Waterと呼ばれていました)を共同設立したとき、彼らは従来の創薬とは全く異なるアプローチを取りました。Schrödingerの計算プラットフォームを大規模に展開することで、彼らは物理学の理論に基づき意思決定を行うというリスクを負い、通常の創薬の基礎である試行錯誤を重ねる実験の多くを回避したのです。  

このアプローチを実施するため、NimbusとSchrödingerの研究者たちはワンチームとして取り組みました。このアプローチでは、二つのチーム間だけではなく、業界全体で普段は別々の部門で働いている医薬品化学者と計算化学者(モデラー)の間でも、強固な協力体制が必要でした。この連携が、新会社に競争上の優位性をもたらしたのです。

Ajax Therapeuticsの創薬研究担当上級副社長で、Nimbus Therapeuticsの前医薬品化学担当常務取締役であるCraig Masse氏は次のように述べています。「TYK2の成功には、計算化学チームと医薬品化学チームの密接な連携が不可欠でした。私たちのプロジェクトチームは、Schrödingerの研究者とNimbusの医薬品化学者が密接に協力して専用のソリューションを生み出し、プログラムの課題を克服するため、新たにin silico(インシリコ:コンピューター上)でアルゴリズムを開発したのです。」 

また、計算によるドラッグデザインを可能にするためには、その技術に対する信頼が必要でした。前臨床試験用の化合物を合成するかどうかの判断は、主にモデリングによる予測に基づくことになりますが、これは従来の化合物設計プロジェクトにおける意思決定アプローチとは大きく異なるものでした。

SchrödingerのCEOであるRamy Farid氏は次のように述べています。「他社が成功しなかった分野でNimbusが成功できたのは、Bruce Booth氏が、計算技術を大規模に展開するという当社のビジョンを共有し、技術に導かれるようにチームに力を与えたたためです。これは創薬において革命的なことだと考えられました。」

Nimbusは、確立された遺伝子や臨床的検証、タンパク質構造の利用可能性、Schrödingerの計算プラットフォームへの適合性、アンメットメディカルニーズを持つ患者さんにその価値を届ける能力に基づいて創薬の標的を特定しました。2011年時点で、チロシンキナーゼ2(TYK2)はこれらの条件をすべて満たしていました。 

実証されたプラットフォーム、そしてこれからの重要な分岐点

TYK2は、ヤヌス活性化キナーゼ(JAK)ファミリーのメンバーの一つであり、インターロイキン(IL)-23、IL-12、1型インターフェロン(IFN)などの炎症性サイトカインのシグナル伝達を制御しています。また、TYK2は、遺伝学的データから、免疫系疾患と強く関連しており、TYK2阻害剤は、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、狼瘡など、複数の免疫介在性疾患の治療に有望であることが示されています。 

JAK/TYKファミリーの各メンバーは、キナーゼドメイン(JH1)と偽キナーゼドメイン(JH2)を含んでいます。JAK阻害剤では、JH1ドメインの触媒部位がキナーゼ活性を担っているため、この部位を標的としています。しかし、この部位は4つのファミリーメンバーすべてでほぼ同一であり、選択的阻害剤の特定が困難となっています。このため、現在FDAが承認しているすべてのJAK阻害剤は、JAKファミリーの他のメンバーを非選択的に阻害することに伴う標的外の副作用を持っています。Schrödinger-Nimbusチームが最初に取り組んだのは、TYK2のJH1ドメインを標的とする高選択的で強力な開発候補化合物を開発し、より広い酵素ファミリーの他のメンバーを阻害することで生じる標的外副作用を回避しながら、臨床効果を維持または向上させることでした。

TYK2、JAK1、JAK2、JAK3とトファシチニブの複合体を重ね合わせると、活性部位に極めて高い類似性が見られますが、選択性を得るためには、4つのタンパク質すべてに対するリガンド結合を正確にモデリングすることが必要です

 

ヒット化合物の発見からリード化合物の最適化まで、研究チームはSchrödingerの物理学ベースの計算プラットフォームを用いて、TYK2のJH1ドメインに対する選択的阻害剤を発見したのです。これは、創薬史上初めて、自由エネルギー摂動法(FEP+)を大規模に利用したプログラムでした。JAK2に対して高い選択性を持ち、JAK1およびJAK3に対しては中程度の選択性を持つ、JH1ドメインを標的とした開発候補が特定されたのです。 

Schrödingerの計算化学部門シニアディレクターであるSayan Mondal氏は次のように述べています。「これにより、効力、選択性、溶解性、浸透性に関する大規模な物理ベースのモデリングが、課題の絞り込みと解決策の洗い出しに関する日々の意思決定の指針となることが立証されました。これらのイノベーションと学びは、これから始まるプロジェクトの紆余曲折に大いに役立つことでしょう。」

 

自由エネルギー計算が可能にした、TYK2 JH1ドメイン阻害剤の選択性獲得へのブレークスルー

 

TYK2のJH1ドメインの開発候補が特定されたのと同じ頃、Bristol Myers Squibb(BMS)の発表論文で、アロステリック部位(JH2ドメイン)を標的とすることで、高い選択性を持つTYK2阻害剤が実現できることが確認されました。 

Masse氏は次のように述べています。「この論文により、アロステリック部位を通じて機能的活性が阻害される可能性があることの生物学的検証が得られました。そしてチームは大きな決断を迫られました。『JH1ドメインを標的とした最初の開発候補化合物の臨床開発を続けるべきか、それとも完全に方向転換してアロステリック部位を標的とすべきか?』と。」 

チームは方向転換を選択したのです。

素早い方向転換

そこで今度は、TYK2のJH2ドメインに選択的に結合し、キナーゼ活性を阻害するアロステリック阻害剤の開発に焦点を当てた設計を行いました。 

Mondal氏は次のように述べています。「私たちは、アロステリック部位に迅速に軸足を移し、FEP+モデリングでイノベーションを起こし、約3ヵ月でピコモルの活性を持つ基本構造を発見しました。開発競争が始まった!私たちは、一度は強力で選択的なTYK2阻害剤を開発したのだから、もう一度できると思っていたのですが、その通りになりました。」

全体として、13,000を超える化合物をFEP+(実験的に行うと5年以上かかる)を用いて計算上で評価し、チームは複数の化学構造系列のプロファイリングを同時に行うことができました。この物理学ベースの技術により、チームはこれらの化合物をピコモルの効力を維持したまま医薬品に近い特性を持つように最適化し、最終的にリード化合物NDI-034858につながったのです。

 

631のキナーゼ選択性パネルにおけるNDI-034858の極めて高い選択性プロファイル。TYK2のJH2ドメインを標的とするよう正確に調整されTYK2をピコモルレベルで阻害する化合物は、1 μMの濃度で、ほぼすべてのキナーゼ(青い点)への作用せず、たった一つのキナーゼに54%阻害(赤い点)を示したにすぎませんでした。

 

NDI-034858は、乾癬を対象とした最近の第2b相試験の成功に続き、現在、複数の自己免疫疾患の治療薬として評価されています。2022年12月24日、武田薬品は、Nimbus Therapeuticsの100%子会社であるNimbus Lakshmi, Inc.と同社のTYK2阻害剤、NDI-034858を60億ドルで買収する契約を締結し、40億ドルを前払いしています。

 

新しいテクノロジー、新しいアプローチ

TYK2プログラムにより、FEP+の全面的利用を含め、将来的にSchrödingerの物理ベースの計算プラットフォームに対するイノベーションを起こす土台が築かれました。「最先端のFEP法の出現により、極めて高い精度で標的に対する潜在的効力の予測が可能になり、本質的に、この技術は『in silico』アッセイと言えると思います」とMasse氏は述べています。 

TYK2プログラムに始まった、企業間、医薬品化学者とモデラー間の緊密な統合的アプローチによる化合物設計は、大手製薬会社やバイオテクノロジー企業との共同開発、およびSchrödinger独自のパイプラインの両方で、数多くの創薬プログラムに応用され、成功を収めています。結局のところ、創薬のパラダイムを変えるにはビジョンと発想の転換が必要であり、Schrödingerは今、こうした取り組みによって生み出される価値を実感し始めています。

Schrödinger Editorial Team

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